安全・危機管理の立場から見たヨットレース主催とは

Talk on Breeze : Vol.026 提言

「JSAF安全・危機管理ワーキンググループ」から、レース主催者にとっての安全と危機管理について以下の提言がまとめられ、JSAF理事会でこれを了承。広く告知することになりました。
2015/3/09


安全・危機管理の立場から見たヨットレース主催とは

安全・危機管理ワーキンググループ

近頃外洋艇、ディンギーに関わらず、ヨットレース中またはその前後に落水事故等が多発している。主催団体は「主催」の意義を十分理解したうえでレース運営をしていると思いますが、事故に対する対応及び責任についての認識を今一度確認され、後に問題を残さないレース運営を望むものであります。

1.主催の定義
公益財団法人日本セーリング連盟が定義付けている「主催」とは、『セーリング競技規則にもとづいて開催されるセーリング競技を、当該団体が責任をもって開催することであり、競技に関する企画、協賛(スポンサー)との契約、大会の安全確保と円滑な運営、競技参加者の制限を含む参加者の募集、財務、収支についても責任をもたなければならない。』と記載されている。
これは当然のことを明記したものではあるが、その中でも外洋艇によるオフショアレースはもちろんのこと、インショアレースであっても安全の確保を中心とする、責任あるレース運営がトラブルを最小限に食い止めるひとつの手段と考えている。

2.責任を問われるケース
基本的に責任を問われるのは、主催者や個人に過失があった場合で、過失が全く無ければ責任を問われることは無いと言える。ただ、責任を問われないといっても、訴訟にならないということではない。すなわち被害者はどんな状況であろうと、誰に(団体、個人)でも訴えを起こすことができるということを認識しておく必要がある。
ここでは主催をテーマにしているので、団体が主催するケースを想定して考えていくことにする。そこで主催者の法的な解釈は「主体的にイベント等を実行する者」が主催者であり、通常我々が口にする主催者、共同主催者そのものがこれに当る。また、共同主催者として団体名等が出ていれば応分の責任は免れないということになる。
これに対して公認、後援、協力、協賛等は法的にどのような解釈がなされるのかといえば、その行為は「主体的にイベントを実行している」ということには当てはまらないと考えられるので、一般的には責任を問われることは考え難いと思われる。しかしながら被害者が公示やレース案内等に団体名が記されているのを見て、訴えることはあり得るということを認識しておく必要があろう。
このように考えてきて整理すると、レース等を主催する場合、主催者は関係する様々な項目を整理して、過失を問われないような丁寧なレースを運営するよう心がけることを求められるということであります。
そこで次にレースを運営する上で、「関係すると思われる様々な項目と考え方」を記したので、今後のレース運営に役立てていただきたい。

3.レース運営におけるチェック項目と考え方
(1) 大会組織
 ・大会を運営するスタッフは充分揃っているか。
 ・危機管理担当者(現場指揮者)を配置しているか。
 ・緊急対応に十分習熟した人材が確保出来ているか。
 ・広報窓口が一本化されているか。

(2)気象海況の情報収集とレースへの配慮

 ・レーススタート時やレース中の(特にロングレース)気象情報の把握は充分か。また気象情報とレース中止との関係について、主催者内でのコンセンサスの形成は出来ているか。(外洋レースの場合はスタート及びその後の続行、中止は艇長の責任において判断される。)

 ・参加者への情報提供はなされているか。(公式掲示板への天気図、天気予報等の掲示あるいは情報源へのアクセス案内)

 ・少なくとも複数(3パターン程度)の気象海象情報により検討をする。

(3)公示・帆走指示書その他指示内容の確認

 ・実施するレースに対し適正な公示、帆走指示書であるか。
 ・適正なレース海面(エリア)を確保しているか。
 ・緊急時の対応について、連絡方法、連絡先等十分な内容が記載されているか。

(4)関係機関等との調整

 ・関係省庁
 ・県市町村
 ・漁業協同や権利関係者
 ・報道機関
 ・他の大会関係者  など

(5)財務管理

 ・不測の事態に対応(特に初動)できる資金は確保されているか。(基金の積立)
 ・資金が不足する場合に備えて対応でき得る主催者賠償責任保険に加入しているか。
 ・保険の内容を完全に把握しているか。(出ると考えていた保険金が出ない場合がある)

(6)艇の安全確保

 ・艇の安全な保管・係留場所が確保されているか。
 ・参加艇はレース採用のカテゴリーを満たしているか。
 ・インスペクションの方法は確立しているか。
 ・出場艇がチェックを受けられる体制(検査員、場所等)は整っているか。

(7)乗員の健康状態の確認

 ・乗員の健康状態について艇長(オーナー)が把握するよう推奨あるいは義務付けしているか。

(8)不測の事態に対する体制整備

 ・事故の発生を前提とした対応策等の話し合いがなされているか。
 ・危機管理マニュアルが整備されているか、またスタッフで読み合わせがなされ、内容が全員に周知されているか。
 ・緊急時の連絡網が整備されているか。海上保安庁、警察等の連絡先は緊急時に対応する窓口かどうか確認済みか。(連絡網の明示)
 ・緊急事態に対応できる通信手段が確保されているか。
 ・緊急の怪我や病気に対応するための、医師あるいは医療機関への協力依頼がなされているか。

(9)レース海面(インショア)の安全性確保

 ・付近に本船航路等危険海域が無いエリアにレース海面を設定しているか。
 ・レースの安全を充分確保できる警備船を配置しているか。

(10)艇長(オーナー)との免責合意の契約締結

 ・事故等の発生に伴う責任は全て艇長(オーナー)にある旨を契約書により免責合意しているか。(契約を交わし合意しているとしても、提訴されることもあり得る。)

(11)共同主催者間の責任分担契約の締結(共同主催する場合)

 ・共同主催の場合、責任の所在について主催者間で契約を交わし、責任の分担について明確にしているか。

最低限以上のようなことについて十分留意し、より必要と思われるものがあれば追加して安全・安心なレース運営を望み、期待します。