– 「VOR 2017-18」〈ベスタス〉衝突の真相 (3/05)

海外レース情報
2018/03/05


「ボルボ・オーシャンレース 2017-2018」Leg-6、香港→オークランド(NZ)は、猛追する〈マフレ〉、〈ドンフォン〉、〈TTP〉を振り切り、オランダの〈アクゾノーベル〉が優勝。

スタート直後からマッチレースを続けていた香港の〈スカリーワグ〉が僅か2分遅れで2位となりました。

ここまでの各レグでの順位と総合成績は、

    L-1 L-2 L-3 L-4 L-5 L-6
マフレ  2 – 1 – 1 – 4 – * – 3 – = 39 point
東風   3 – 2 – 2 – 2 – * – 4 – = 34
スカリ  5 – 6 – 5 – 1 – * – 2 – = 26
アクゾ  4 – 5 – 7 – 3 – * – 1 – = 23
ベスタ  1 – 3 – 3 -RET-DNS-DNS- = 23
ブルネ  6 – 4 – 4 – 5 – * – 6 – = 20
TTOP   7 – 7 – 6 – 6 – * – 5 – = 12

数字は順位です。大会公式webページでは、どんどん更新されてしまうので、Leg-6終了時のポイントはここに書いておきます。
高得点方式で、各レグファーストホームは+1Pのボーナス。サザンオーシャンのLeg-4はポイントが2倍となるので、こうなります。


Leg-4のフィニッシュ直前で漁船と衝突した〈ベスタス〉は、貨物船でオークランドに運ばれ、こちらで修理していましたが、どうやらLeg-7には間に合いそうです。
»Click

〈ベスタス〉のスキッパーCharlie Enrightは、このLeg-4には乗っていませんでした。
2017/01/08のこの欄で、「身内が入院したということで……って、それで降りるか?」と書きましたが、この記事によれば、2歳の息子が細菌性肺炎で入院したとのこと。

そこで、代わりに盟友29歳のMark Towillがスキッパーを務めていたところでのこの事故です。

仕事を取るか家族を取るか。で、家族をとった自分がいない間にこの事故が起きてしまったわけで、Charlie Enright本人も上の記事ではかなり気にしているようです。

ということで、
Leg-4のスキッパー、Mark Towillが、事故のときの状況を改めて詳しく話しています。

「Q&A WITH MARK TOWILL」

香港フィニッシュの30マイル手前。領海は12マイルですからその外になりますね。

現地時間で01時頃の夜中。曇りで月例も3ですから、真っ暗だったんでしょう。
風速20ノットで海面はmoderate sea stateとありますから、ちょっと白波混じりって感じでしょうか。
TWDは70度くらい。ヘディングは300度くらいだったと思うので、スターボードタックのリーチングで、かなりのスピードで走っていたはず。

Mark Towill自身はキャビン内でレーダーとAISで周囲の船舶に注意しており、デッキのクルーとはインカムで連絡をとりあっていた。
その時点で3隻のIDをAISで確認。
1隻は海底ケーブルの敷設船で、すでに通り過ぎ。かなり前方にもう1隻。これも通り過ぎている。
そして3隻目は漁船。この船と衝突したようですね。
IDが分かって近くにいたのはこの3隻のみだが、それ以外にも何隻かの船がAISでは確認でき、さらに漁船はいっぱいいた。

AISでIDが確認できた漁船に接近します。
デッキのクルーは漁船の灯りを確認。航海灯とは書いてないので、集魚灯の明かりが見えたんじゃないでしょうか。
—————————–
we headed up to starboard to keep clear
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とあるので、この漁船を避けるために、右転舵した、ということでしょう。

Mark Towillはキャビン内でAISを見ながら(その漁船の)方位と距離をデッキのクルーに伝えていた。
デッキのクルーはその漁船(の前を)横切ることを確認。横切れると思ったところで突然衝突した。……とのこと。

この部分、重要なので、原文を載せておきます。
——————————
The crew confirmed we were crossing the fishing vessel when, before the anticipated cross, there was an unexpected collision.
——————————-
うーむ、デッキにいたクルーの話が聞きたいですね。
この瞬間、Mark Towillはデッキに出ていないみたいなんで、これ、AISに映っていた漁船とは別の船であった可能性もありますね。

東南アジアではまともに航海灯を灯していないような漁船は珍しくないので、ここでもその手かなと思っていたのですが。デッキのクルーは目視できていた、と。

いやいや、集魚灯だけ付けて走っていたら、どっちに進んでいるのか分からないか。

〈ベスタス〉の乗員側にけが人はいなかったものの、衝突後はもういろいろな事が起きます。

スターボードタックのリーチングで、おそらくコードゼロを展開していたんでしょうから、左前方は見にくかったかもしれません。
そこで左舷バウに衝突したので、船はそのままぐるっと回ってタックしてしまいます。

船体左舷前方に穴が開き浸水しますが、ここで左舷が風上になったのが良かったのかも。
衝突前のリーチング時にすでに右舷のウオーターバラストには水が入っており、セールも右舷側に置いてあったので、あとはキールを右舷側にカンティングさせてさらにヒールさせ、開いた穴を水面上に出し浸水を防ぎます。

強制的にヒールさせている状態なので動きにくいものの、なんとか船をコントロールできるようになったのが衝突から20分後。
そこから衝突地点に戻ります。

衝突地点では、漁船上の人々が海面をサーチライトで照らしていたのが見え、これは誰かを探しているのだろうと思い、直ちに救難活動にはいります。
しばらくして、海面上の1人を発見。

救難活動に入ってすぐ、ナビゲーターのSimon FisherがVHFの16チャンネルで衝突漁船の代わりにMaydayを発信。

付近には多くの船がいたものの、英語が通じず、困ったもよう。
最初にAISで見えていた海底ケーブル施設船の乗員が英語と中国語両方できたので話が伝わり、そのguard boatが衝突海面に来て救難活動に加わります。

海底ケーブル施設船ってかなり大きな船みたいなんで、細かい作業をする小型のボートが付いて回っているのでしょう。

バウに大きな穴が開いた状態での救難活動はかなり難しかったようですが、guard boatの助けもあり、なんとか1人を探しだしデッキに引き上げ、心肺蘇生作業を行っている間にHong Kong Marine Rescue Coordination Centreのヘリが到着。Hong Kong hospitalに搬出されますが必死の救難活動のかいなく、病院で死亡が確認された。

と、残念な結果に終わります。

また、〈ベスタス〉からすると、衝突した相手の船がいったいどんな船なのか? むこうの言い分は? 等は、〈ベスタス〉側からすると、いまだによく分からないということなんでしょう。

別に、Independent Report Team (IRT)もできています。
第三者調査委員会という感じか。

外洋レースの安全とリスクを考えた場合、今回の衝突事故は多くの教訓を生むわけで。この調査は重要です。

まずは、「VOR 2017-2018」のレースディレクターPhil Lawrenceへのインタビュー。というか、聞き取り調査という感じで。

「Volvo Ocean Race initiate independent report」

なんでこんなところで、レースをやったのか。なんてことも問題になっていたのですかね?

香港は中華人民共和国の特別行政区で、中華人民共和国(記事ではmain land chinaと書かれています)の権限がどこまで及ぶのか、かなり微妙な海域で起きた事故で、公的機関による捜査はまだまだこれから。いや、待っているといつかは出てくるのか?
列車事故でも、列車毎土に埋めちゃう国ですから。

さらに、すぐ後にいた〈東風〉が捜索活動に加わらなかったのはどーいうことなのか? というのも問題になっていたようですが、そのあたりの説明がここでも出てきます。

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